あまのじゃくのきまぐれ

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【書評】ポーの『黒猫・アッシャー家の崩壊』を読んでみた

 

黒猫・アッシャー家の崩壊―ポー短編集〈1〉ゴシック編 (新潮文庫)

黒猫・アッシャー家の崩壊―ポー短編集〈1〉ゴシック編 (新潮文庫)

 

 

小説全体の印象

 

今回は、エドガー・アラン・ポーの『黒猫・アッシャー家の崩壊』の書評を行っていきたいと思います。自分の場合、書評っていうより、読書感想文なんですけどね。

なかなか上手に書評もできないわけですが、背伸びをすることなく、自分の意見・感想をツラツラと書いていきます。

少し前に書評した『モルグ街の殺人・黄金虫』はミステリー色の強い作品でまとめられていましたが、『黒猫・アッシャー家の崩壊』は完全にホラー小説でまとめられています。推理小説の始祖として知られるポーですが、ホラー小説もかなりクオリティの高い小説でした。詩人でもあり、エンタメ小説も書けてしまうんですから、ポーの多才ぶりには脱帽ですね。ポーの小説の面白さって、ストーリー構成にもあるんですけど、誌的な文章表現によるところも大きいと思います。逆に言えば、文章の難しさにもつながってきてしまうと思うんですけど、ポーに影響を受けているナボコフの文章を読む時に似た面白さを感じます。『黒猫』や『ウィリアム・ウィルソン』の陰鬱とした自意識世界に満ちた文章は『ロリータ』を読むときに似た気持ち悪さを感じました。

 

今回読んだ新潮文庫の『黒猫・アッシャー家の崩壊』には、『黒猫』『赤き死の仮面』『ライジーア』『落とし穴と振り子』『ウィリアム・ウィルソン』『アッシャー家の崩壊』の6作品が収録されています。これらの短編小説を読んだときの印象に共通するのは、何か不安をもたらす黒い影のようなものが絶えず登場してくる点です。その黒い影というのは、小説によって、黒猫であったりドッペルゲンガーのようなものであったりします。小説の中で、不安や恐怖感情は何かしらに化けて出てくるのです。心象世界が物質世界に干渉していくのも、これらの小説の特徴だと思います。

 

個々の小説の感想
 
それでは、新潮文庫版『黒猫・アッシャー家の崩壊』に収録された6つの短編小説の感想を簡単に書いていきたいと思います。
 
①黒猫
この小説はホラー小説としてストーリラインをたどっているだけでも楽しめる小説ですが、考察するとなるとかなり難解です。
自分が思うに、この小説のキーワードは「無意識」だと思います。
上でも述べましたが、黒猫は不安や恐怖を呼び起こす存在として登場します。黒猫は主人公の罪悪感や不安感情を煽るような暗示をする存在として登場し、主人公は怯えたり憎悪を駆り立てられてりもします。読んでいるうちに、黒猫は主人公の無意識を映し出す鏡のようだなと感じもしました。
この小説で印象に残ったのは、人間が本来的に備えている「天邪鬼」を分析する箇所です。主人公が溺愛していた黒猫を首吊りにして殺してしまう箇所に出てきます。やってはいけないからこそ、最悪な行動を自ら選び取ってしまい、自分で自分を苦しめてしまう心理がよく表現されていると感じました。
よく猫を苛める情けない風貌のおじさんとかもいますけど、そういったおじさんもこのような鬱屈した心理から、猫を苛めてるのかなとも考えていました。
 
②赤き死の仮面
全身血まみれになって死ぬ疫病が外の世界で蔓延したために、王様が城郭の中に引きこもるという話です。ここで出てくる疫病はペストのことでしょう。王様は多くの貴族とともに、城内に食料をため込み、舞踏会を開いているときの話です。
豪華絢爛に施された舞踏会で参加者も乱痴気騒ぎの中、黒い時計がチャイムを鳴らすとシーンと静まり返ってしまうところであたりの表現も迫力があります。パーティを開いているなかで、どこからか忍び込んでくる仮面の男も象徴的です。この作品も仮面の男や黒い時計、黒い部屋が不安や恐怖の象徴として、暗い影を投げかけます。
 
③ライジーア
6つの短編小説の中で一番毛並みの違う小説でしょう。ホラー色のない小説であるどころかロマンチックな小説です。恋愛で報われなかったポーの恋愛観が幻想小説として映し出された小説だと思います。
 
④落とし穴と振り子
スペインの異端審問がモデルとなっていて、主人公が拷問部屋の罠をかいくぐって恐怖を乗り越えていく話。暗い部屋にある落とし穴に落ちそうになるシーンやブンブンと振り子として襲い掛かってくる三日月型の刃が迫ってくるシーンはかなり迫力があります。拷問の最後に部屋の4つの壁が高熱で溶けて、主人公が危機迫るシーンがあるのですが、後で語る『アッシャー家の崩壊』のように、空間が登場人物の心理状態とシンクロしているようにも思えました。
恐怖小説として、読者を引き込ませる小説です。
 
⑤ウィリアム・ウィルソン
自分はかなり『黒猫』と似た構造の小説だと思います。主人公のウィリアム・ウィルソン(仮名)は品行の悪い男。そんなウィリアム・ウィルソンには、小さい時からの寄宿舎時代から、同姓同名で同じ誕生日、寄宿舎に入ったのも出ていったのも同じ日時、同じような容貌をしている同級生がいました。いわゆるドッペルゲンガーというやつに近いですね。この同級生は、『黒猫』で出てくる黒猫のように、ウィリアム・ウィルソンに暗示を与えるような存在として語りかけてきます。どこか顔の見えない謎に包まれた存在で、主人公を怯えさせ、しまいには憎悪を誘ってしまうところも『黒猫』と同じストーリー展開です。最後の最後に、ドッペルゲンガーの正体も明かされます。
鬱蒼とした主人公の内面世界や理知的な語り口で語られる回想は、ナボコフの小説を思い起こさせます。ナボコフもやっぱりポーにかなりの影響を受けていたのでしょう。
 
⑥アッシャー家の崩壊
 最後は、おどろおどろしい屋敷に心身ともに患ったアッシャー家の兄妹の話です。この作品も他の収録作品同様、精神世界と物質世界が混線したかのようなおどろおどろしい幻想小説です。一応、ネタバレは控えますが、終盤のシーンも危機迫る迫力があります。訳者の巽孝之氏は、この作品がなければ、スティーブンキングが原作のキューブリック監督が映画にした『シャイニング』は誕生していなかったと評していますが、かなり影響を受けていると思います。
心理状態と抱き合わせて進んでいく情景の描写が迫力を生んでいく傑作怪奇小説です。
 
 
長々と書評を書きましたが、ポー作品は現代小説に大きな影響を与えているだけのこともあって、死後200年経っても面白さは廃れていません。
是非、ご一読してはいかがでしょうか?