あまのじゃくのきまぐれ

基本的には雑記と書評をやってます。

『わたしを離さないで』(カズオ・イシグロ)は、今年読んだ小説のなかでも抜群に良かった

今回は、ノーベル賞作家カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を読みました。

自分にとって、『わたしを離さないで』は今までに読んだことのないような小説でした。今年、読んだ小説のなかでも1番に面白かったです!
以前にも、カズオ・イシグロ作品は『日の名残り』を読んでいるのですが、読み始めたのはカズオ・イシグロがノーベル賞取ってからでした。正直に白状するとノーベル賞を取って世間的に騒ぎになるまで、カズオ・イシグロのことも全く知りませんでした。恥ずかしい話なんですけどね・・・

 

読み方は人それぞれ

正直、この小説かなり書評が難しいです。

というのも、物語の途中で、この小説の肝となってくる設定、いうなれば主人公たちの正体やヘールシャムと呼ばれる施設の謎などが、主人公キャシーの回想の中で解き明かされていく仕掛けになっていているからです。ネタバレしてしまうと、読みながら、物語のピースを組み立てていく面白さを損なわせてしまうので、ネタバレはしない方向で書評を進めていきたいと思います。

 

この小説、読むときの視点や解釈次第で、何を主な主題だと読むか異なってくるように思います。人の心に残り続ける小説とは、色んなテーマが含まれているからこそ、何回も読み返され、読む人や読んだタイミングによって、解釈もまた異なってくるものだと思います。まだカズオ・イシグロ作品は2作品しか読めていませんが、『わたしを離さないで』も『日の名残り』もそういった作品だと感じます。

 

『わたしを離さないで』の主題として、道徳の問題を片隅に置いてどんどん発展していく先端技術への問題提起としても捉えることができるし、社会と社会的弱者の問題としても見ることができる、はたまた、青年期の繊細で難しい人間関係の物語としても読めると思います。

では、ぼく自身がこの物語をどのように読んでいったかというと、『運命』というキーワードからこの本を読みました。

この物語にでてくる主人公たちは、ある使命のもとに生かされている存在で、運命というものが決まってしまっている存在です。この物語にでてくる主人公たちのほとんどは、すでに決められた運命をなんとなく受け入れてしまい、残酷な結末を迎えていってしまうのです。タイトルにもなっている「わたしを離さないで」は、恋愛のイメージをどうしても想起させてしまいがちですが、この物語の中では、祈りの言葉のように感じました。「離さないで」と呼びかけているのは、恋人かもしれませんし、この物語にでてくる「ポシブル」という存在、楽しかった過去の記憶や、理想や夢、社会とも捉えることができると思います。わたしという弱い存在が、運命という大きな力の前では無力であることは分かっていて諦めてしまっていても、何かに向けて祈らざるを得ないのです。

この主人公たちのような運命を我々が同じように辿っていくことは、まずありませんが、運命に抗うことができずに、あらゆるものを失っていってしまう姿に共感を覚え、キャリーやトミー、ルースたちの残酷な運命に同じように絶望感を抱くのではないのでしょうか。

 

この小説のすごいところ

この小説の凄さは、物語自体は恐ろしい、絶望的なものなのに、表面的にはそう感じさせない点だと思います。『日の名残り』と同じように、文体はあくまで敬語で進められていき、理路整然とした主人公の回想のもと、物語が進んでいきます。主人公が、大げさに物語を語らないからこそ、読み手は、主人公の回想からいずれ見えてくる真相に絶句するのです。(本を読んでいるのだから、表現としておかしいが)

まだ、カズオ・イシグロ作品を読んだことがない人はまず『わたしを離さないで』を手に取ってみることをお勧めします。ぼくもまた再読しようと思います。